ズーカラデル│ズーデクラス

ズーデクラス

ズーデクラス

   

2025.09.1221:16

番外編 ポイントネモについて


こんにちは。ズーカラデルというバンドでギターと歌を担当している吉田崇展です。

先日、新アルバム『ポイントネモ』をリリースしました。とても良い作品ができたのだけど、聴いてもらえただろうか。

SNSに投稿して下さった感想はとても喜びながら読んでいます。ありがとうございます。
Xでは #ポイントネモ語り部 などもご活用頂いていますが、私も感想とかウラ話とかあるので曲を聴きながら書いていこうと思います。

今回は全体公開にするので、沢山読んでもらえたら嬉しい。

長くなりそうです。時間がある日に一気に読んだり、分けて読んだり、その日聴く曲に合わせて読んだりするのも良いと思います。


1.猫背

冒頭のピアノとアコギと歌の絡みから徐々に温度が上がっていくイメージが私の頭の中にあって、まずはそこに到達することを目指してアレンジを進めた。
普段はもっと行き当たりばったりで、その場のアイデア次第でゴールが変わるのが面白いと思っているのだけど、この曲に関しては今回のやり方がうまくハマったと思う。
全然良くない曲になったら私のせいなので、かなり力(リキ)が入った。

今作はどの曲もドラムの録り音がとても良くて、特にこの曲で「笑えないジョーク〜」直前のスネアの一発が録れたときには勝ちを確信したのを覚えている。

歌詞は当初冒頭の2行と「謎の生物がアルバイトで生計をたてる少女の家に匿われている」という謎のコンセプトだけがあって、残りの部分は歌録り直前に一気に書いた。間に合わないかと思ったけど、この歌詞が書けたのが今作の個人的ファインプレー賞だった。
「謎の生物」は本当は「俺」で、少女はずっと前を向いていた。

ライブで演奏するのに腕が10本(サポートメンバー含めて5人分)じゃ足りないけど、どうするの?


2.イエスタデイ・ワンスモア・ワンスモア

結成当時からズーカラデルが得意としてきたタイプのグルーヴの曲。そういうのも臆せず
やっていこうよというのが今作を作る上での合言葉だった。
結果として、ただ上手になったとか以上にちゃんと2025年の曲になっていて、嬉し!

カラフルなイントロのシンセとマンドリンのユニゾン、サビ裏のオクターブ奏法とマンドリンのユニゾン、縦横無尽に登場する永田先生(※1)のスライドバー奏法に対して、漢のドラム、ベース、アコギ。空間は埋まっていないが迫力はある、みたいなアレンジにできたのがイケてると思う。

この曲の登場人物たちの生活には明確な物語があるのだけど、それを歌詞で全部書ききらなかったのは良かったと思う。
歌詞もメロディーもとても気に入っていて、ちょっと泣きそうになりながら歌を録音した。


3.大喝采

プロデューサーのJazzin' park 久保田真悟さんと一緒に制作した。これはバンドとして初めてのことで、とてもスリリングで最高な体験だった。
思いもしなかった視点とか、全然知らないコードが現れる度に冷や汗をかきながら、ブラッシュアップされる曲に感動していた。
このセッションのうちに何匹はぐれメタルを倒したかわからない。アルバムの他の曲にも間違いなく影響があった。

歌詞の最後の1行は、本当は別の言葉で締めようかなと思っていろいろ考えていたのだけど、久保田さんに「変えちゃうの?元のやつ良いと思ってたんだよね」みたいな意味のことを言われて嬉しかったので元のにした。正解だったと思う。

久保田さんも(我々も)口数が多い方ではないけど、間違いなくバンドメンバーみたいに情熱を注いでくださっていた。ありがとうございました!

コーラスのこたにさんは私がファンだったので、参加してくれて嬉しかった。クリティカルなハマり方だった!


4.ヨルガオ

近年研究していたギターを弾く時の右手のニュアンスを繊細に出すことができた気がしていて、満足。
デモの段階で音が良すぎて、本番でそれを超えられるか心配だったけど杞憂だった。
各楽器、勢いだけじゃない良い音を収録できているように思う。まだまだこの沼は深いから、こういった曲はどんどんやっていきたい。

湿度とか性とかを歌うのあんまり上手くないかも、という自認があるのだけど、この曲では余韻にそれを忍ばせることができたような気がしている。
音と相互に関係し合って、言い過ぎず、しかし全てが伝わる、みたいなのが良い詞なので、その意味でヨルガオの歌詞がアルバムの中で1番の「良い詞」だと思っている。どやさ。


5.ムーンライトにお願い!

キショい男の子が主人公のポップソングっていうのは日本国内だけでも銀杏BOYZとかくるり、RAD WIMPS、他にも沢山のアーティストによって歌われていて、私はそれを聴いては涙し、赦され、勘違いを繰り返してきた。

ので、女の子にとってのそういう曲ももっとあって良いんじゃないかな〜なんて軽い気持ちでこの曲をつくり始めたは良いものの、私は女の子じゃないので生々しさとキラキラのバランスにかなり苦労することになった。

結果、いち人間として「これなら」と思える所に着地できたと思っているけど、女性の皆さんはこれ聴いてどう感じるのか気になるところではあります。

リズム体のプレイがかなり良くて、曲の推進力を高めているのがナイス。
必要な場面に必要な音を(不要な場面には空白を)入れることができたので、かなりポップスとしての精度が高まった気がする。
アレンジやメロディー、歌詞も含めて、1年前には完成できなかった曲だと思う。


6.バードマン

この曲は『太陽歩行』をリリースしてすぐ、「過去にやったことがあるとかは一旦抜きにして、自分が1番好きなことをやろう」というコンセプトで制作を始めた。その方が世の中の幸せの総量が増えるので。

平たく言うと名曲を作ってやろうと思っていた。ただ作業を続けるうちに、世の中には“名曲”っていうジャンルはなくて、大きなエネルギーや想いが封じ込められた曲が後から誰かに名曲と呼ばれるんだな、という当たり前のことも考えるようになった。

メンバー3人と涼司(※2)・健太さん(※3)で弾いたベーシックに、いつもお世話になっているトランペット・トロンボーンの竹内さんと大田垣さん、コーラスのcoupleももちゃん。音を重ねて行く度に喜びが増えて少しずつ曲が良くなって行くのが嬉しかった。

バンドを組んでみたいと思った日から、ずっとこういう曲が作りたかった。

歌詞にはアニーの「君」に登場してもらった。
人生のステージが変わっても相変わらず面倒臭そうな問題を抱えていて、変わらないねえって感じで良かった。
彼女はこれからも目の前にある出来事と向き合いながら生活を続けていくのだと思う。それは歌になりうる。

この曲を作り終えたところから、今アルバムの制作がスタートしたような気がする。


7.友達のうた

録音が難しいのでずっと作品に収録してこなかった曲。
涼司と健太さんと5人で演奏するライブの感触が良くて、これなら行けるかもしれないと思いたち、レコーディングに至った。

10年以上前から存在している曲だけど、いまだに飽きない。これからも変わらず演奏し続ける予定です。


8.ポイントネモ

バンドサウンドをイメージしながら弾き語りのワンコーラスを作って、メンバーに聴いてもらったらすぐイメージ通りの演奏が返ってきた。

バードマンでも鳴っているんだけど、スピッツ田村さんから貸して貰って弾いた12弦ギターがイントロにビタっとハマった時、これは凄いことになるぞと思った。雨が体を〜の部分で鳴っている永田先生考案の12弦のアルペジオも、この曲に凄みを与えてくれた。

J-popの真ん中を行くために、ストリングスアレンジを島田昌典さんにお願いすることになった。J-popの真ん中とは、バックナンバーでありaikoなので。どデカいストリングスがこの曲にパワーを与えてくれた。

歌詞の最初の行から最後の行まで、一つの嘘も綺麗事もない本当のことを書けた。だからって曲が良くなるとは限らないのだけど、これは良い曲になったからすごい。

ラブソングではあると思うんだけど、この詞を書いているときに思い浮かんでいたのは恋人とかって言うよりはたまたまそこに居合わせただけの2人だった。


9.デク

この曲の「あなた」には意外なモデルがいるけれど、それが誰かは秘密です。デクというタイトルの意味も。

デクの原型はバードマンと同じ時期に作った。ダーティーなギターの音で切ないメロディーを歌うっていうのは私が高校生の頃から体に染み込ませ続けてきたスタイルで、この曲があるかないかで、アルバムの印象はかなり違ったんじゃないかと思う。
荒っぽさを残したレコーディングも良い味を出している気がする。この曲を完成させられて良かった。

2番Aメロの後静かになるところでいきなり謎フィルターが全体にかかるのは田宮(※4)さんの仕業で、最初に聴いた時は笑った。でもそのおかげでより有機的で印象深いセクションになったと思う。

世界が単純にあずましくなったら良いのにね、ってのは本当にそう。


10.330

自分の思っていることをストレートに書く曲を作ろう、というのがこの曲に着手した動機で、私の赤いギターES330からタイトルをつけた。

一聴してざっくりとしたエイトビートに聴こえるけど、ブリッジミュートのシーケンスフレーズや柔らかいシンセパッドの音を丁寧に配置したら、ちゃんと奥行きのある音像になってくれて嬉しかった。ずっと目指していた形の一つに手が届いた気がする。

330は私のギターだけど、ギターソロは永田先生のストラトキャスターによる演奏。この曲に限らず、メンバーの頭の中のイメージを永田先生が顕現させてくれた場面が今作には沢山あるのだけど、このギターソロだけは「こんな音でやって欲しい」というオーダーをガン無視されたテイクが採用になった。格好良かったので。

私はステージで演奏している時、どうかみんな一つになんてならないでくれよ、と思っています。
バラバラのままそれぞれの体が共振できるように手を尽くして音楽を用意します。

最初はこの曲をアルバムの最後の曲にしようと思っていたけど、全曲録音を終えてみたらもっと相応しい奴がいたのでそいつに譲った。


11.ローリンローリン

ステージでの銀シャリのおふたりの立ち居振る舞いからは私が憧れているロックンロールバンドの匂いがした。板についているとはあの状態のことを言うのだと思う。

銀シャリのことを考えていると自分たちにも重なる部分が沢山あるように感じられて、最終的にはローリンローリンは銀シャリの歌でありながら自分たちの歌でもあるんじゃないか、みたいなところまで行った。おこがま

この曲はライブのセットリストの中に入っても、色々なことを丸く収めてくれる雰囲気がある。アルバムの最後にローリンローリンがあれば誤魔化さず、シリアスにもなりすぎず、まぁまぁまぁとか言いながら次のスタートに向かえる気がしたので、この曲でアルバムを締めることにした。




最後まで読んでくださってありがとうございます!何か質問とかあったらコメントに書いてみたりしてください!次回のブログで答えるかも、答えられるやつは!

では!




(※1)永田涼司のこと。本作に共同編曲者として参加している。北海道出身。
(※2)同上。
(※3)山本健太のこと。キーボーディスト。ヤマケン。北海道出身。
(※4)田宮空のこと。サウンドエンジニア。本作のRECやMIXを担当。北海道出身。

  • きりんこ

    2025.09.27

    シングルの時から「バードマン」が好きで、あまり気の進まない時(つまり毎日の通勤時)に聴いています。
     
     単独で聴いていた「バードマン」は、誰がなんと言おうと自分の道を進む!って強い気持ちを持って聴いていたけれど、アルバムの中に入るとみんなで行進している感がさらに強くなり、勇気が出ます。

     曲順は今回も殴り合いしながら(笑)決めたのでしょうか。もし順番で悩んだ等エピソードあれば教えてください。

  • もちこ

    2025.09.18

    アルバム全体を何度もリピートしています。曲それぞれが好きだし、なにより曲順が最高ですね!かっぱえびせん🦐ですよ、このアルバム🛰(やめられない とまらない)
    中でも「5」→「6」の流れが堪らなく好きです。
    個人的活用方法なのですが、、、毎朝の踏み台昇降(自宅の階段)の際に「9」からスタート→廻って「6」でゴールの約30分。曲が変わる度に踏み出しの足を変えて。終えて軽く足踏みして息を整えながら「7」「8」を聴く。背筋伸ばして、ティンカーベルみたいな汗を輝かせながら、昨日の憂さをリセットしています✨

  • ムギ

    2025.09.15

    曲を聴いて、歌詞カードのクレジットを見て感じた疑問や興味をラジオやSpotifyのLiner Voice、このブログを行き来しながらひとつずつ昇華していく作業はファン冥利に尽きます。
    “私はステージで演奏している時、どうかみんな一つになんてならないでくれよ、と思っています。”の一文にズーカラデルのライブがなぜこんなに居心地がいいのかがわかった気がしました。ツアー、楽しみです。収録曲、全曲聴けたら嬉しいなぁ…(切望)

  • りさ

    2025.09.14

    ブログ読みながら曲を聴くの楽しかったです!一つ一つの曲にたくさん想いや工夫が込められててどれもほんとにかけがえのないものだなと思いました。歌詞もメロディーも全部大好きです。
    ポイントネモのジャケットの少年(少女?)は筏じゃなくて人工衛星に乗ってるのは何か意図があったりするんですか🧐(間違えて削除してしまったので送り直しました。すみません)

  • ペリメニ

    2025.09.14

    ブログと歌詞カードと精度の悪い耳と頭を駆使して聴いては喜んでいます。
    今はまだ「猫背」で、このギターを持ち、鍵盤と少ない音数から始まり、クラップからドラムスティックに持ち替え、優しくる加わるベース、美しく彩るストリングス、更に力強いエレキの間奏から続く最高潮(ここが感動で好きすぎる)そこからエンディングに向かっていく、その流れまで全て完璧すぎて、1本の映画みたいで、私の好きな4つのフレーズが際立ち感動して泣いてしまいます。
    猫背の俺が好きな背筋の伸びた少女。わたしの頭の中ではおかっぱ頭(ショートボブ)です!吉田さんの中の少女は何頭ですか?(いつもキショいコメントしてキショ過ぎては消してごめんなさい)

  • なな

    2025.09.13

    こういった歌詞の解説を見るのが好きでまずは自分が最初に聞いてどう思ったか、そして作り手の想いはどうだったのか。やっぱり吉田さんは私が思ってる以上に浅はかな歌詞ではなくずっしり重たい想いが込められてて曲一つ一つに愛着が湧きます。そして道産子としては最初にデクを聞いた時にあずましいってあのあずましい!?って感じたのが印象的😂ムーンライトにお願い!はライブで手拍子するのがとってもとっても楽しみです☆

  • えみ

    2025.09.13

    文章を読みながら1曲ずつ聴くという幸せな時間を過ごしました☺︎
    「ポイントネモ」を聴く度に“雨が体を〜”の部分で心がハッとする感覚を持っていたので、ふむふむ〜となりました。「ヨルガオ」が特に好きなので吉田さんの言葉に嬉しくなりました。ツアーで聴けるのを楽しみにしています!

  • うみねこハッチ

    2025.09.13

    アルバム『ポイントネモ』もう何度も繰り返し聴いています。このブログを読みながら、一曲ずつ曲を聴いて、「なるほど!」「ホントだ!」と新たな気付きがたくさんあって、またまた繰り返し聴いています。「ムーンライトにお願い!」の女の子、ポップな曲調が最高で、可愛らしいって思います😊

  • つぐみ

    2025.09.12

    この文章を読みながらまたもう一周して、新しく聞こえる部分に驚いたり嬉しくなったりして。これからどんなふうに曲たちが自分の中で変わっていくのか楽しみになりました :)
    はやくツアー行きたい!!!

  • リン

    2025.09.12

    曲を聴きながら、歌詞を読みながら拝読しました。
    素敵なブログをありがとうございます!

  • ねこのり

    2025.09.12

    『ポイントネモ』のアルバム、もうすでに何度も何度も聴いています。
    また今回も素敵な音楽をありがとうございます。
    楽しかったり、切なかったり、そして愛おしい気持ちになる曲ばかりです。
    ズーカラデルの描く孤独はあったかい音がして(これは今までの曲にも感じています)、安心します。
    今回のブログを読みながら、また1曲1曲、いろんな視点で大切に聴いていきたいと思いました。
    あ、「あずましい」って北海道の方言を初めて知って、語源も知って、なんかいいなぁってなってます。
    ライブが楽しみで待ち遠しいです!!大好きだー!!

VIEW MORE

吉田崇展の知らんがな案件一覧